Creative Lab: たのしいブランド vol.1,コンビーフと儀式

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先日、少し贅沢な昼食をつくろうかとコンビニエンスストアに立ち寄ったところ、ちょっとした事件に出くわしました。「ノザキのコンビーフ」のパッケージが変わっていたのです。

 

コンビーフと言えば多くの人が思い浮かべるであろうコンビーフの代名詞「ノザキのコンビーフ」。濃い緑と白のツートンカラーにクラシックな赤いNozaki’sのブランドマークと、中心に描かれた牛の優しそうな目線は、誠実さと安心感の伝わるおなじみのパッケージデザインです。なによりその角の丸まった台形の跳び箱のような缶詰の形状が、平べったい円筒形や長方形の缶詰が大半の商品棚で異彩を放つ存在でした。

そしてこのブランドをより飛び抜けて個性的たらしめていたのは、家に持ち帰って缶詰を開ける時の「体験」でした。上部に貼付された金属の付属品である「鍵」を剥がして開け口に差し込み、そこから平行に2本入れられた切り筋にそってくるくると帯のように巻き取って開封する行為は、ズッシリとした缶の重みと金属を切る時に手に伝わる感触、「鍵」に巻き取られた帯が徐々に太くなってゆく様などを含め、自分にとってはちょっと贅沢なお昼のサンドイッチや夜食を作る際の「儀式」として機能していたように思います。

 

調べてみるとこの「枕缶」と呼ばれるパッケージ、「販売開始から70年、製缶等製造ラインが限界に来て(ノザキ公式Twitter)」という事情で変更になったとのこと。一番の理由は設備の老朽化と、特殊なサイズと製缶方法を維持するコストにあるようです。

 

さて、「ノザキのコンビーフ」ブランドですが、この状況に対してどのようにブランドを変えていったのでしょうか。

まずパッケージのデザインについてはほぼ一切変わっていません。大きなJASマークが正面に見えなくなったことと、デザインを施す面が少し横に平たい形になったために空間に余裕ができたことで、全体にすっきりとした印象になっているくらいでしょうか。

 

そしてパッケージの素材と形状です。元々は古き良き「缶詰」だったコンビーフですが、樹脂のケースにアルミのフィルムでシールをした上にさらに樹脂の蓋をしたものに変わっています。(「アルミック缶」:実際にはアルミ箔と樹脂フィルムを貼り合わせたケースです)ちょうどヨーグルトのパッケージに似ていますが、ここで「ノザキのコンビーフ」らしさを出すひと工夫があります。ヨーグルトのパッケージなどを観察するとわかるように、こういったタイプのパッケージは普通に置くと下の方の幅が狭くなっていますが、それを逆さまにして陳列するようにデザインを印刷しているのです。旧パッケージの大きな特徴といえば、前述したように台形の丸っこい跳び箱のような形状でしたが、蓋側を下にすることで「台形のパッケージ」というこの大きなブランドの資産を守っているのです。

 

最後にもっとも大きく変わったパッケージにまつわる「体験」について。まず店頭で新しいパッケージを発見して手に取った時に大きく感じるのは、軽いということです。個人的にはずっしりとした重みが独特の充実感にもつながっていたのですが、軽くなったことでよりライトで食べやすい食品、という印象になったように思います。そして冒頭で書いたパッケージを開ける「儀式」です。これがなくなってしまったのもやはり個人的に少し寂しいと感じています。しかし逆に考えてみると時間のかかる面倒な作業でもあったような気もします。新しくなったパッケージは、透明の樹脂の蓋をぱっとはずしてアルミのシールを剥がすだけ。簡単な2ステップで手も汚れません。子供が開封しても缶の端で手を切る心配もありませんし、缶の裏側を水ですすいでからビン缶のゴミ箱に捨てる必要もありません。ノザキのコンビーフは、以前よりも簡単で簡便、清潔感もあり家族に安心なブランドの体験を提供しているのです。

 

その特徴的なパッケージ形状と、独特なブランド体験で長く愛されてきたコンビーフを例に、ブランド資産のなにを捨ててなにを残すか、変化をどのようにポジティブなブランドの成長ヘつなげられるか、ということについて一考してみました。

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Atsuhito Enoki / Design Director

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