「良いアイデアは素晴らしい環境から生まれる!」
ランドーはクリエイティブに対するこだわりと同じくらいスタジオ環境にもこだわっていますが、他のスタジオはどうなんだろう?どんなこだわりを持っているのだろう?そんな疑問から始まったのが、この企画。素晴らしいスタジオ風景を定期的に紹介しています。
第5回は「株式会社HAKUHODO DESIGN」。デザインによるブランディング専門会社である同社が田町から赤坂へ移転したのは2008年。日本を代表するアートディレクター、永井一史さんにオフィス環境についてお話を伺いました。
(中央: 永井一史さん 左: Landor CD 大島由久 右: D 原玲子)
オフィスは赤坂の中心とも言える超高層ビル「赤坂Bizタワー」の11階。
エレベーターを出て少し長めの廊下を進むと、美しい曲線を描く全面ガラスの扉の先にライブラリーのような空間が広がっています。
左手には素材の異なるテーブルと椅子が配置されていますが、これらはオフィスを構成する各部屋のテーマとリンクした象徴的なインテリアとなっているそうです。
エントランスからオフィスの中心にある大きな本棚を囲むようにして、執務室、3つの会議室、個室と続き、本棚の周りを回遊できる設計になっています。また、各部屋には異なるテーマが設定されており、11階の眺望と自然光を生かしながら、それぞれに際立った空間作りが成されています。
エントランス正面はデザイナーのスペースということで、テーマは「クリア」。ガラスと白を基調とした空間です。デザイナーが働く環境に「クリア」という言葉を持ってきた理由として、「デザインを生み出す場所として、例えばシルバーや黒のイメージがつくよりも、クリアがふさわしいかなと思ったんです。ニュートラルな状態を作ることで、バリエーションとクリアさを持ち込みたいと思いました。」という永井さんの思いがあったそうです。
ニュートラルでいられる状態はデザイナーにとっても大事なことですよね。
その隣は会議室。テーマは「ナチュラル」。大きな一枚板で造作されたオリジナルの木のテーブルに、美しく配列されたジグザグチェア。「この空間を作る際に自然光を大切考えました。光が安定していて、柔らかい光が回ってくる。むやみに照明をつけるのは好きではないので、夕方になっても自然光でいられます。」まさに空と光を借景としているオフィスの良さが生かされた空間です。
続いて白をテーマにした全面採光の窓から光が差し込む会議室。壁にはナチュラルカラーを採用しているため、緊張感がありながらも柔らかな雰囲気があります。
そして奥へと続く3つ目の会議室。金属を思わせるシルバーの床面と木の本棚で構成されています。他の2つの会議室と比べるとパーソナルで落ち着いた空間となっており、気軽な会話が生まれそうな空間になっています。
さりげなく置かれたオフィスサイン。この佇まいも個性の一つとして光を放っています。
本棚の周囲を囲む動線内に散らばるアートなアイテムたち。インスピレーションのヒントが隠されていそうです。
一方、所々に飾られているグリーンは、オフィスが田町にあった時から継続して同じ花屋さんに1週間に1度アレンジをお願いしているそうです。
この時、エントランスの顔となっていたのが、ダイナミックなコットンのリース。女性も多い職場のため、みなさんも嬉しそうです。部屋ごとに生けられた花々も空間のアクセントとして彩りを演出しています。
光とうまく調和し、オフィスビルであることを感じさせない凛とした空気のオフィス。この空間を作った時のコンセプトをお伺いしました。
「空間のテーマ設計として、モチーフはあそこにおくとか、多様な空間を作るというコンセプトはありますが、それを繋げる上位概念のようなものは作らなかったです。どちらかというと機能的なことを考えました。常に複数の打ち合わせがあるので3部屋までは会議室にして、そこを僕が行ったり来たりする。そういう実務的な仕事の流れを考えて作っていきました。」
空間の居心地のよさや打ち合わせの時間を部屋によってコントールをするのではなく、常にクオリティと合理性を重視された空間作りを心がけられたそうです。
最後にオフィス環境で一番大事にしているポイントをお伺いしました。
「すごく大きなミッションとしては、博報堂にしても所謂オフィスビルにオフィスとして作った空間の魅力が、如何にクリエイションに大事なのかを表現するということです。それを実験的にやったのが田町オフィスでした。当時、博報堂の子会社も含めて、インテリアに拘ったり、壁にホワイトボードをつけたりしたのが、多分博報堂で僕たちが初めてなんです。何か、そういうクリエイションにおいて、環境がとても大事だということをメッセージにしたいなと思っていました。今ではグループ会社も自由に空間作りをしており、そのきっかけは作れた気がしますね。」
2008年に田町から現在のオフィスに移転してきて以来、大きく規模が変わることなく保たれた機能的な空間。機能性だけでなく、時代性やエモーショナルな部分も意識することで、新鮮な空間を保ち続けています。
「移転した当時はある意味、重さと言うか、しっかりしたということが重要だったので、黒いオフィスでよかったと思うんですけど、今はそれだけではない。そういうクライアント業務もありますが、もう少し開放的だったり、ナチュラルだったりとかいうイメージも必要だと思うので、時と場合によって使い分けているという感じですね。」
「素材と色」「クオリティと合理性」という言葉が印象的でありながら、ニュートラルでいられる空間は、デザインを生み出す環境として重要な要素。そんなことを永井さんのお話から私も学びました。
株式会社HAKUHODO DESIGNの皆さん、貴重なお話とお時間をありがとうございました!